2016年7月21日木曜日

ひとつの流れ



ようやく、初の店舗以外での展示会が終わった。いつものように2週間という期間だったけれど、今回は蔦屋書店三年坂店地下での搬入から販売、搬出まで含めてかなり長かった。しかも基本は朝10時から夜の8時か9時まで売り場にベタ付きだったから、そりゃもう疲れるのも当たり前というもの。

展示会に来ていただいた方々には直にお伝えできたが、内坪井の店舗はいったんクローズすることにした。というか、もう什器も何もかも運んでしまった。2年近くだっけ?期間としてはかなり早かったけど、来ていただいたみなさま、これから来ようと思っていた方々、お気に入りの店のひとつだった方々、鼻持ちならないヤツがやっている店だと憤慨されていた方々、本当にお世話になりました。

赤紙が貼られたままの店舗自体のマンションの復旧は、どうやら今年いっぱいかかるらしい。それを待って再開というテもあるにはあったのだけど、僕らは(というのは僕と奥さんと子どものことだけど)その道を選ばなかった。なぜかと問われると、ひとことでは説明出来ないけれど、「そういう流れだったのだ」というしかないような気がする。前の保田窪の店からこっちに移転したのも「ひとつの流れ」なら、震災があってひと呼吸あっていったん撤収を決めたのも「ひとつの流れ」。そう、相変わらず僕らはくるくるくるくる川に流される木の葉のような生き方をしている。気づくとそうなってしまっている。

以前のブログでも書いたけれど、今回の震災によって、本当に皆それぞれ考えさせられたと思う。考えなければウソだと思う。否が応でも自分たちが、あるいは自分たちの店が、これまでやってきたことやこれからやっていくべきこといついて、何らかの銃口を突きつけられたはず。僕らとてそれは同じだった。

雑貨のことでいうと、果たしてこれから何を、誰に、売っていくのかが見えなくなった。例えば、壊れたからただただモノを売るとか、復興のために他の地の人々へ何かを買ってもらうというのも、僕自身のことでいえば、何かが違うと思えて仕方なかった。別にこれは批判でもなんでもなくって、考え方やスタンスの違いだと思う。そして何よりこれまで通りに運営できるのかも甚だ疑問だった。被害の大きかった阿蘇や益城の方々だってお客様には居るはずで、それを考えると少なくとも売り上げが下がることはあれど、上がって上がって仕方ない、ということはここ一時はありえないだろう。何にせよ、店としての在り方を考え直さなくてはならないのは明白だった。

一緒にやっている奥さんのマッサージの方は、どちらかというと震災がプラスに働いた面もあったかもしれない(こういう書き方は良くないけど)。店舗はなくとも出張や場所を借りて営業をしては、彼女のマッサージを受けたいと震災以降本当にたくさんご連絡をいただいたし、やはりこういうときだからこそ、人の手の温かみとかあの人の人柄に触れたいというような、いわば「必要とされる」事実を受けて、とても有り難かった。でも逆にだからこそ彼女のなかでは、ひとまずはこれから多くのひとたちに向けて幅広く商売を広げるというよりも、今すでに大事にしているお客様たちのことを何より優先したい、という想いが現時点で強くなったようだ。広く浅くというよりも、あくまでもっともっと狭く深く。広げるにしても少しずつ少しずつ…。もちろんこれからどうなるか分からないけど、今の時点でその考えは僕自身もしっくり来る。これもひとつの震災以降の変化と言えるかもしれない。

ただ店舗をいったんクローズすることに対して、すんなり自分のなかですべてが受け入れられたかというと、そりゃ正直簡単じゃなかった。いろんなお客様の顔が浮かんだし、取引先である作り手の方々の顔も浮かんだ。大口叩いたまんま、まだこの地で何にも始めきれてない気もしたし、ここで気張って居残るのも法だとは思った。でもそんな時、以前の職場の同僚達からライターの仕事をいただいたり、今回の蔦屋書店での展示会の話がするするすると繋がったり、だんだん不思議と自然に川の流れが見えて来た。「ふうん、そうか。そういうことなのか…」恥ずかしながら僕はいつもいつも大抵まっさらというか、基本何にも方向性や目標を決めないで生きているので、本当にこういう流れには弱くて逆らえない。だいたいこれまでもこうやって生きて来た。し、これからもそうやって生きていくのだと思う。人によっては「何をバカなことを」と言われるかもしれないけれど、僕自身はジンセイにおいて自分で決めれることなんて、実はそうそう無いんじゃないかと思っているフシがある。



だから今回お店をいったんクローズするという報を受けて、お客様や関係者からは同情やら励ましやらさまざまな反応を受けたけど、正直僕ら自身はあんまりどうも感じていない。驚くほど、案外普通である(僕に関してはセンチメンタルになった部分があるにはあったけど、女性はもうなんかしなやかに強すぎて話にならない)。まぁたしかに別に店舗が無くったって、やりたいことや伝えたいことが確固としてあれば、なんら変わることは無いものな。逆に店舗があったって、そこがしっかりしていない店が果たして世にどれくらいあるというんだろう? 面白いことに、こういう時に僕らのことをきちんと感覚で分かってくれている人たちに限って何にも心配していないようだ。「ああ、あなたたちならきっと大丈夫よね」。それでおしまい。いったんクローズという報を受けてのそれぞれの反応というのも、それぞれの人を表していて、とても面白いというか興味深いと思う今日この頃。

というわけで、今年いっぱいくらいは出張展示のような形で営業をしていく予定です。もしかしたら今後も今回のように蔦屋書店三年坂店でできるかもしれないし、できないかもしれない。いちおう次の展示の内容とスケジュールは大体決まっているのだけど、場所はまだわかりません。さぁ今後、どういう流れになるのか。気になる方は僕らと一緒に見守ってください。