「そのひとの本質が知りたければ、そのひとの隣に居る“友”を見よ」と、昔のひとは言った。
・・・かどうかは知らないが、ひとの本質を知るにあながち間違った術ではないと思う。ほら、よくいるじゃないですか。本人はほんといいやつでみんなから好かれるのに、なぜかいつも連れてる彼女が「うーん」という男が。そこのセンスが合わないとどうも心底信用が・・・って、あれ? それちょっと違う話か。でもまぁとにかく、普段誰と一緒に居て、誰と仕事をして、誰と気が合い笑い合うのか、というのは、そのひとの本質を表すのに無関係ではないはずであり。ということで、今回のモロッコのラグ、ボシャルウィットの展示会でコラボレーションすることになった『久永屋』さんについて記そうと思うわけです。
知っている方も多いかもしれないけど、『久永屋』は熊本・南阿蘇鉄道の長陽駅にある駅舎カフェで、30半ばの久永操さんという方がやられている。カフェ自体は土、日、祝日のみやっており、他の通常の日は資本ケーキ(この店ではシフォンを資本と呼ぶ)をいろんなところで売り歩くという、「サルキ売り」という独特のスタイルを取っている。『久永屋』の印が天上にドデンと記された赤いミニ・クーパーで至る所に出没し(そんな看板背負って走ってたらば、どう考えても悪いことができないと思うんだけど)、保存料・添加物無しのフレッシュふわふわシフォン・・・じゃなかった資本を売り捌くという、かなりアグレッシヴで面白い販売方法だ。
そもそも僕がこの『久永屋』を知ったのは、前職の編集をやっていた時。『九州の食卓』という雑誌の編集をしていた僕は、入ったばかりの時の南阿蘇特集で『久永屋』のシフォンケーキを知り、紹介する記事を書いた。そして実際プラベートでも何回もこのカフェに行き、やがて店主である久永操さんと出会い、その後はたまたま別の仕事でなかなか濃密なインタビューをさせていただき、彼がこれまでやってきたことだとか、その考えだとか、その経緯なんかをしっかりと知るようになったのだった。
実際に行ってみると分かるけども、とにかくこの『久永屋』は本当に特別なカフェだ。それはなにも駅舎を使ったカフェというスタイルを取っているから、そのせいだけじゃない。例えば普通はやはり阿蘇でカフェをやるとなれば、観光客のお客さんが多いのが当たり前だろうが(そして実際多いんだけど)、この店に行くと大抵は地元のおじいさんなんかが普通に幸せそうにコーヒーを啜っている姿を見かける。地元の子どもたちは果てしなく元気にその辺を走り回り、夏ともなれば水遊びをし、地元の見るからに多感な若い子たちはウェイターとしてきびきびと、でも少し恥ずかしげに働いていたりもする。そんななかで観光客としてのお客様たちもとても幸福そうな笑顔を浮かべながら、資本ケーキを食べ、コーヒーなんかを飲んで寛いでいる。それが僕がいつも見てきた『久永屋』の風景だ。とにかく地元のお客さんと観光客のお客さんが見事に自然と溶け合っている感がハンパないのである。またその風景や雰囲気が、南阿蘇の穏やかで心休まる景色や、ユルくて思わず微笑んでしまうようなローカル列車の風情と相まって、他にはあり得ないほど濃密で親密な空気感を演出する。そんな風に、限りなく地元に密着しながらも常に外に開かれた感じ、その二者が見事に溶け合う様というのは、もちろん店主の根幹にある考えが産み出すものなんだろうと僕は勝手に推測する。たぶんそんな空間こそを、店主はこの店で描きたいのだろう、と。こう書くとなんだか簡単なようだけれど、じゃあそんな店が他にありますか、そんなことができている店がありますか、と問われたらば、なかなか見つからないのが本当のところなのではないだろうか。
店内は昭和二年建設されたという駅舎を「出来る限り遺したまま」作られている。それも操さんが自らこつこつこつこつ少しずつ改装したらしい。家具なんかも地元の小学校から譲り受けた古いものもあるそうだ。何よりこの「出来る限り遺したまま」というのがポイントであって、彼は昔アメリカに留学していたことがあるらしく、「かつてあった素晴らしいものを、できるだけありのまま後世に遺し託す」という、古き良きアメリカンスピリットみたいなものをしっかりと根底に潜め持っているようなのである。留学時に見たオレゴンの風景と南阿蘇の風景が被る、なんてことも言っていた気がする。まぁとにかく自分のことで言ってしまえば、もうすでに30後半だった編集時代、そろそろいつかはどうにか独立自律しなきゃなぁ、とぼんやり考えていたその時、彼のそんなこんなの話やら、素晴らしいカフェとその空間を創り上げたその若き資質にひどくオドロキ憧れたわけである。「いやはや、すげぇ漢がいるもんだよなぁ」と深く感心、シットしたのを覚えている。
だからまぁ、正直今回のコラボ企画の源泉はもうその頃からあったのかもしれない。僕は今回のモロッコのラグの展示会で、なんとか『久永屋』の資本ケーキを販売できさえすれば、それで良かった。そして『久永屋』の素晴らしさをみんなで共有したかった。知らない人にはぜひ知って欲しかった。でも彼はそれだけじゃなく、「モロッコといえば塩レモンの発祥地らしいから、オリジナル資本を作ろう」だとか、「南阿蘇にも是非モロッカンラグをはためかせたい」とか(駅舎カフェで今回のラグが実際に手に取れるように置いてある)、もっと大きなことを提案してくれた。そして、まぁ、出来上がったこの『久永屋特製モロッカン資本-塩レモン味-』のなんとウマいこと!! ふわふわ生地のなかにほんのり香るレモン、そしてたまに当るソルトのきりっとしたキック感。上妻画伯が手がけた、淡いタッチながらもしっかり旅風情を感じさせるオリジナルラベルも実に実にいい感じである。お客様はもちろん喜んでいるだろうけど、やっている自分が実は一番嬉しい。
いまの時期、熊本という大きいのか小さいのかよく分からないこの地でも、ほんとにまぁ驚くほどのいろんなイベントやらコラボレーションのようなものや、さまざまな試みが行われている。それ自体はまったくいいことなのだと思う。僕自身もまったくそこに異論はない。でも僕個人のこの店のことでいうと、そこにはできれば最低でも互いのリスペクトが欲しい。いったい誰と、どんな想いの下敷きがあって、何をやるのか。そこだけは明確にしたい。そしてそれは何もコラボレーション云々だけの話ではなくって、そのまんま、うちで取り扱う商品や展示会についての話でもあるんだと思う。ひとつの店の周辺を見れば、その店の本質が垣間みれる・・・というのは、真実でもあるかもしれないが、ある意味ちょっと恐いことでもあると想う。それはまぁとにかく。『久永屋特製モロッカン資本-塩レモン味-』は残り、7(土)、14(土)、15日(日)の販売予定です。ぜひお試しください。
久永屋
〒869-1404
熊本県 阿蘇郡 南阿蘇村 大字河陽3440-4 長陽駅舎内 久永屋
TEL (0967) 67-1107 FAX (0967) 67-1107
土曜、日曜、祭日のみ長陽駅舎内で駅舎カフェ営業中
OPEN 11AM ==> CLOSE 6PM
http://www.hisanagaya.com
0 件のコメント:
コメントを投稿