2018年10月5日金曜日

谷口聡子展示会『調和』

「なんか生き物、動くものが欲しいですね」。

いつもDMの撮影をお願いしているカメラマンのえとうくんが、DMの撮影中にそう言った。たぶんなかば冗談で言ったのかもしれないけども、自分はなんとなく間に受けて、裏の白川公園にひとまずアリを探しに行った。できれば黒大アリ(って名前かは知らないけれども黒くて大きなアリ)を見つけたかったのだけど、どれだけ探しても見つからず、小さなアリしかいない。しょうがないから、その小さな子たちを何匹か箱に詰め、店に戻って作品に放ち、写真をシュートしてもらう。・・・が、やはり小さ過ぎてダメみたいである。

「ウーン、できれば蜘蛛なんかがいるといいんだけど」などとふたりで言い合いつつ、僕がおもむろに店の入り口に出てみると、そこに偶然にも小さな蜘蛛がいた。ぴょんぴょん跳ねる小さな蜘蛛が。潰さないように、逃がさないように、なかなか苦労してようやく捕まえて、ピアスたちのなかへ蜘蛛を放つ。・・・そうして今回のDMのメインの写真は決まった。なんだかあまりにも出来過ぎた話だけど、こういうことはたまにある。




しかもそのあと調べてみれば、今回の展示会の作家である谷口聡子さんのテーマは自然であり、それを題材にしながらニット作品を創ることが多く、なかでも蜘蛛の巣はずばりそのテーマに沿ったもので、実際に蜘蛛の巣のような細く繊細な作品を創られているし、今回その作品も展示されている。まぁ蜘蛛が取り持つ縁というか、巡り合わせというか、とても不思議な感じで、でもなんというのだろう、その辺の偶然性もこの作家っぽいなぁとなんとなく思ったりする。



そう、今、展示会をさせていただいている谷口聡子さんはニット作家で、たった二本のシンプル極まりない棒を使って大きなインスタレーション作品やピアスやブローチなどのアクセサリーを産み出し、そして今回は初めて身に纏うものとしてセーターも展示させていただいている。染色も学ばれていて、その作品のほとんどを自分で染めているという奥深さだ。その作品たちをひとことで言い表すのは難しいのだけど、なんだかとても不思議なバランスを感じる。もちろんすべて手編みなので、どこかしらあたたかいのだけど、だがしかし限りなくアヴァンギャルドな感じもある。髪の毛よりも細い糸で編まれていたり、ときに雑草を使って編んだ作品なんていうのもあったりする。自然をモチーフに選んだその世界観はちょっと狂気を感じさせながらも、風を感じ揺れると途端に愛らしくなる。狂気と愛らしさの間。それこそが自然というものなのかもな、とぼんやり思ったり。










今回数多く展示されているピアス。とにかくかわいい。かわいいが、よおく見ているとそれがただただかわいいだけではないことに気づく。ひとつひとつがあまりに細かく、そして同じ物がなく、その多くにヴィンテージの糸を使い、さらりと天然石がいたりする。かわいさの奥に技術に裏付けされた念のようなものがあり、それはただのかわいさだとか単なるアクセサリーであるということをなかば遠ざける。だからなのか、作品がたくさん並んでいる様を見るとみなさん途方に暮れている。なんだか凄い物に直面しているなぁ・・・とでもいうように。





じゃあそれを産み出している作家はどんなひとかと言えば、僕と同じくらいの年齢の女性で、穏やかだがあくまで酒に強く、ふわふわしているようで実際はきっぱりとした頑固な芯を持ち、まぁひとことで言うのならば限りなくキュートで、幾ばくかの・・・いやかなりの熱を、帯びたひとである。おばあちゃんになっても必ずや今と変わらず二本の棒でなんらかの作品を産み出している姿が浮かぶような、そんなひと。実際にお会いしてお話しすると、その作品のあり得ないくらいの重みと面白いくらいのマッドさがかなりあがるので、在廊日にもっと多くのひとに会ってほしかったなぁといまさら悔やんでいる。



というわけで展示会は10月8日、来週月曜まで続くのです。

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