胸騒ぎを覚え、なかばいきおいで取り引きを打診してみると、先方もうちのHPを気に入ってくれたらしく、取り引きは大丈夫とのこと。だが、取り引きをさせていただくすべてのお店にお願いしている条件が一点あるのだ、という。「すべての取引先には、兵庫県西脇市に在るショップと工場に直接足を運んでもらい、現場の空気感をまずは知ってもらうことになっています。熊本からでは遠方になるが、大丈夫でしょうか」と。そのとき、見事なまでに胸騒ぎが快哉に変わった。取り引きとはまったくそうあるべきで、モノを売るのに、作り手側の想いや工程を知らずして、満足のいく接客ができるわけがないと常日頃思っていたから。
というわけで、大阪に飛んでいき、西脇市にある「weaving room & stock room」に行ってきた。今年の4月にオープンしたというショップと工場は白で統一された外観が印象的で、まだ初々しさが残る雰囲気だった。ショップにはくらくらするくらいに無数も無数のショールがあり、まずはそれに誰もが圧倒されるに違いない。ショールの他にもパンツやシャツなどもあることを知った。
スタッフの方に案内され、ショップの隣にある工場へ。終止、止むことのない規則的なベルト音のようなものが聞こえてくる。そこには4台の、ちょっと古風な織り機がスタッフの方とともに元気に働いていた。ここではコットンとウールのショール、その他セーターなどが製造されている。
聞けば、1980年
頃の「レピア織機」と呼ばれるものだという。そもそもこの辺りは播州織(ばんしゅうおり)と呼ばれる綿織物が有名で、主にシャツ地として使われてたそうだ。以前は海外まで輸出されるくらいに繁栄していたが、現在は中国産に押され減少。昔は西脇市のいたるところでこんな機械がガンガンに動いて生産されていたのだろう。
このブランドのショールの素材にはコットンとウールがあり、大きさはそれぞれミドルとビッグサイズがある。コットンのミドルサイズで価格は六千円台から。すべての商品がヴィンテージの織り機で作られる。そもそもこのブランドはなぜわざわざ昔の機械を使ってショールを作るのか。それはもちろん播州織の復活、ということもあるだろうが、それより何より、限りなく手縫いに近い、やわらかで肌触りの良いものが製造できるから。最新の機械に比べると生産性も低く、いちいち手間がかかる。でも微妙な糸のテンションの具合を調節できるし、アナログに近い機械だからこそ、「人間の手仕事」に近い働きをしてくれるというわけだ。
工場の奥にもう一個工場があって、そこではもっと古い、1960年製の「ベルト式力織機」という機械が働いている。
これはもう「レピア織機」よりも見るからにもっともっとアナログで、動くのかなぁ、ほんとにこれで編めるのかなぁ、と思える機械。でも面白く素晴らしいことに、「レピア織機」で織ったものよりも、まださらに繊細でやわらかいショールが編み上がる。それをショップでは他のショールと分けて「only one shawl」として販売している。でももちろん「レピア織機」よりも手間がかかるので、数が圧倒的に少ない。でも普通のショールと「only one shawl」を触り比べただけで、いや、というか、くるくるっと巻いて、二つをポンとそこに置いただけで、威厳というか、なにかが違うので、これまた面白い。
機械で編むのだから、どれを使っても同じものができるだろう、と考えるのが普通だが、そうではない。使う機械によってもまったく違う個性のものができあがる。それこそ、玉木新雌のショールを作る機械たちの仕事が「人間の手仕事」に近い証明ではないだろうか。
「手仕事」、「手仕事」、「手仕事」。数年前あたりからだろうか。その文字がいろんな生活雑貨店や雑誌で踊るのをよく見かける。もちろん人間の手仕事は尊いし、その商品を広めることは大事だし、それを受け継いでいくことはもっと大切なことだ。ただ、緻密な手仕事であればあるほど、商品はそうそうたくさん生産はできないし、当たり前に価格もはね上がる。結果、一部の人々にしか行き渡らない。
こう書いていくと、古い機械を使い、限りなく手仕事に近いショールを生産するこのブランドの意図がはっきりと分かるだろう。「良いものを、より多くの人々に、できる限り届けること」。そんな当たり前だが、誰もできないことを実現しているのがこの玉木新雌というブランドなのだ。
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