そもそも『catejina(カテジナ)』という洋服ブランド、そしてきんちゃんこと、告鍬陽介くんに出会ったのはいつの頃だったろうか。僕がまだ前の編集の仕事を辞めて、離婚もして、なにか人生の路頭と陶酔に迷い込んでいる頃だったような気がする。アルコールとセックスとセンチメンタルの霧が、色濃く深く、真っ黒で真っ白な霧の最中に居たあの頃。あの頃はあの頃で愉しかった。そしてやっぱりせつなかった。
そんなとある日、トウキョウに住む、大学時代からの悪友ともいえる女友達からとある連絡があった。「熊本出身の洋服の創り手で、とても面白い子がいるから会ってあげてほしいのだ」と。できれば熊本で洋服の取り引き先も探しているから紹介してあげてほしいのだと。果たして創っているのがどんな服で、創っているのがどんなヤツか、なんてまったく聞いていない。その状態のまんま、僕らは熊本駅で僕がその頃に乗っていた古いジムニーで「はじめまして」と出会った。なんでそんなことが起きたのかと言えば。というか、なんでそんな出会ったこともない人間とそんな流れになったのかといえば、もちろん僕がその頃暇だったからに他ならない。・・・のだが、そうはいっても僕だって見知らぬひとにそんな風に普通は会いはしない。それはなんといっても彼を紹介してくれた悪友の女友達のお陰である。昔っから彼女のセンスは、なんにしても間違いが無かった。「まぁ彼女が言うんだったら」。それが一番大きかった。あのウソみたいな90年代をともに同じ大学で送り、数えきれない程の酒を呑んでは呑まれ、本当にお互いいろんなことがあった悪友だけれど、最終的に僕らはまだ奇しくも悪友同士で、まだともに生きている(そして今ではお互い子どもが居る。なんと、お互いに子どもが!)。なんにしても僕らを繋げたのが彼女だったということは、僕にとっては本当に大きいことだった。だからこそ出会うべくして出会った、と言えるだろうから。
僕が店を出してからも、きんちゃんはトウキョウからこっちに帰省しては、いつも必ず店に顔を出してくれた。来るたんびにそのときどきでやっていた展示会を見に寄ってくれては褒めてくれた。僕にとってはじつはそれはとても大きなことだった。もちろん僕だって自分で間違いないと思ってやっているのだけど、なかなか鳴かず飛ばずで(それは今もだけど)やっぱりこれってどうなんだろう、正しいのかな、ダメなことやってるのかな、と自信が無くなることもある。といって僕は熊本に向けてなにかをやっている意識はほぼ無いので、トウキョウに住むいちクリエイターの意見はとても貴重だったのである。そんななか、どうやら今年そのきんちゃんが熊本に帰ってくると聞いた日には、本気で嬉しかった。ああ、これで自分周辺のなにかが変わる、と喜んだものだった。こういう風に周囲の温度を少しばかり上げる男というのは、実はいそうでなかなかにいないものなのだ。
それでなくともきんちゃんとは本当に食の趣味が合う。お互い長い間トウキョウで過ごして来ているし、好きな感じの店とか食の話を始めると延々と終わらない。彼はトウキョウに居た頃、なぜか燻製ユニットなるものを組んで、燻製を作っていた謎のキャリアもある。いつか夢のサワー屋をやりたいというウソだかホントだか分からぬ希望もある。真面目な話とにかく今の時代、自分の創りたい作品なんかだけではなくって、その一方で食に対する探究心がある男が居るのはとても重要で大事なことだと思う。なにかをやる時に、食の関心があるかないかはそのひとを見極めるのにとても重要なファクターだと思う。
・・・でも伝わらないよな。うん、きっと伝わらぬ、伝え切れてないだろう。このブランドのなにかとそのすべてを。まぁとにかく伝えるのが難しいブランドなのだ、この『catejina』は。なかなか「~みたいなブランド」と言うのも難しいし、いまの洋服の世界の主流とも言えない気がする。でもそれだけにどこにも無い洋服なのは確かであって、一度出会ってしまうとなかなか抜けれぬブランドなのです。というわけで『catejina』の展示会は今週いっぱい12月3日までです。
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