『阿蘇坊窯 (あそぼうがま)』。その名前の通り、そこで形作られては焼かれる器は必ずや阿蘇の土や溶岩や草木などを使っている。取材当日、工房に伺うと、まさに掘ったばかりの赤い土がおもむろに袋に入れて置いてあった。もちろんそんな素材も作家自ら掘ってきたものだ。一年間寝かせたりして使う場合もあるそうだが(その土も見せてもらったけれど、熟成して味噌のように馴染んだ色になっていた)、そこにあるのは掘ったばかりの、あまりに“まんま”な土のように見えた。
「・・・やってみましょうか」。
本当にこんなにも“まんま”な土で器なんてものができるのだろうか。なんてぼんやりこちらが考えていたのを察してか、『阿蘇坊窯 』山下太さんは土を袋から出し、土に混じった小石や木の根っこなんかをざっくり取り除き、力強く土をこね始めた。叩いてはこね、叩いてはこね。
そしてしまいにはサンダルを脱ぎ捨て、台の上にさっと駆け上がり、その足の裏でダンダンッ、ダンダンッ、と踏み出した。そうしてようやくだんだんと土が滑らかになっていき、色も均一に馴染んで来る。工房には驚くほど力強い音が響き渡っている。でも猫たちは逃げない。いつもの作業なのだろうか。僕はといえば、とにかくなんだかあっけにとられ、その作業を目の前に「まるでうどんをこねているようだな」なんて馬鹿なことを想いながら見ている。
十分な柔らかさになると、太さんはロクロの準備を始め出した。でもなんだか苦笑いと言うか、どうも照れくさそうな顔をしている。そしてこう言った。
「本当はね、こういうのはひとに見せるものではない気もするんです。・・・だって・・・なんかほら、それってひとのセックスを見せられているのと一緒のような、ね」。
ロクロとセックスかー。その時、僕の頭の中にあの映画『ゴースト ニューヨークの幻』のエロティックなロクロのシーンが浮かんだのか、それとも浮かんでなくって後付けでそれを思い出したのか、それは定かではないが、いや、とにかくその後、山下さんがロクロをまわしている姿を見た時、その意味が分かった気がした。創造。融合。そのトロトロに溶け合う様。文字通り、土と戯れながらなにかを産み出すその様子はとてもとても濃密で、見てはいけないもののような、たしかにエロティックでさえあった。そしてそれはたぶん、自ら阿蘇の土を掘って、その土を使いつつお互いに溶け合うからこそ起こる創造なのだと想う。つまり、山下さんは阿蘇そのものと寝て、融合し、溶け合い、交信しているのだろうと。
「せっかくだからこれも焼いてみましょうかね」。たったいまロクロを回してつくってくれたカップを見ながら山下さんは言う。でもたぶん難しいかもね、とも。掘って来た阿蘇の土100%だとやはり焼いた時にどうしても割れやすいのだそうだ。土にはどうしても小石なんかも入っているから、そこからヒビなんかも入りやすい。だから阿蘇で掘って来た土と他の土などを混ぜて作品を創ったりもしている。さぁ果たしてこのカップはこの世におぎゃぁと産まれることができたのだろうか。『阿蘇坊窯 』展示会、いよいよ今週土曜日から始まります。
(写真すべて hisatomo.eto)
阿蘇坊窯 展示会 ASOBOUGAMA EXHIBITION
2018.9.1(sat)〜9.17(mon)
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