2015年9月2日水曜日

豚軟骨とトマトのアジア風煮込みができるまで


もう数年前になってしまったけれど、ベトナムに行ったことがある。
なにせ食べ物がなにを食べてもすべからくウマかったのが印象的だったのだけれど、
なかでもとてもよく覚えているのがお昼の定食屋みたいなところで、
日本で言うとお惣菜感覚でテーブルに大鉢に盛られた数々の魅惑的な料理が並んでいて、
客は好きなものを好きなだけ取り分けて食べる、という感じで大変に素晴らしかった。
それを思い出したわけでもないのだけど、アジアっぽい料理を賄いで作ったので、なんとなく記してみようと思う。

                   *

そもそも昨日は最後のマッサージのお客様が遅く、閉店から1時間ほど時間があった。
その時間を使ってなにかご飯でも仕込もうと隣のスーパーに行ったらば、レモングラスが安売りしてあるのを見つけた。1時間あるということは何かを煮込んだ方がいいだろうから、豚バラ肉の塊少しと豚軟骨とこれまた安売りのセロリをなんとなく買って来た。

いつものことだけど、別に特別に参照したレシピはなくて、
ただ頭の中には以前エッセイストの玉村豊男さんの本で見た、醤油と酢で煮込んだどこかアジアの豚肉料理があった(ちゃんとした名前があったけど忘れてしまった)。でもまぁなんとかなるだろう。

豚肉を塊のままなたね油で炒めて焦げ目をつけて、
葉とともに刻んだセロリ、潰した皮のままのにんにくと薄切りのしょうがとひたひたの水を入れる。

まずはそのまま煮込んで肉を柔らかくした方がいいのだろうけど、そうする時間もなかったから、多めの醤油とそれより少なめの酢、塩少々、一袋半分の適当に刻んだレモングラス、多めの黒砂糖(酒も味醂もなかった)と、ナンプラー・・・がなかったので、最近よく使っている天草の煮干しの粉をさらさらさらと入れる。あたまのなかでは「煮干しの粉+醤油=ナンプラー」だろう、と勝手に納得している。

火は中火から弱火へ。店のなかは豚と酢が煮込まれた、甘いような酸いような独特の香りで満たされる。この時マッサージをしていたスタッフのミキティはお腹がすいてすいて仕方なかったようだ。40分くらい煮込み、煮込みは冷めるときこそが味が染みて肝心と、そのまま冷まして家へ帰る。

朝、店に来る。なんとなく火をもう一度かける。豚の脂が浮いていたら掬いとろう、と思っていたのだけど、浮いていないのでそのままほおっておく。なんとなくまた40分くらい煮込んでみる。というのは、豚の軟骨が意外に硬く、どうもいい感じにならないからだ。

この時点でスープ(というか煮汁)を味見してみると、かなり醤油辛い。
うーん、それじゃあちょっと方向転換をしようと、ご飯を洗ってちょいとスーパーに行き、安売りのトマト二袋と卵4個を買ってくる。さて、いよいよ頭の中でようやく料理の形が見えた。

ご飯を炊く間に(というのはうちの店のガスレンジはひとくちなので)肉を一口に切る。
軟骨トロトロなんて時間は残されていないことにようやく気づいたからだ(ということはきっと二回目の40分煮込みも不必要だったということだ)。トマトも適当に一口に切る。

炊けたご飯をレンジから離し、新しい鍋を強火にかけ、切った豚肉とトマトを入れる。
トマトが徐々に煮くずれて来たら、煮込んでよれよれになったセロリとスープを徐々に足していく。ついでに残り半分の新しいレモングラスも刻んで足してしまおう。

ここから、そうだなぁ30分くらいだろうか。トマトとスープが相まってソースになるくらいまで強火で水分を飛ばす。ここで味見をすると、トマトと煮干しと醤油が一体となって、目の前にはどこぞのアジア大陸が広がっているようだ。もうちょっと何かで味を整えようか。でも今日はご飯にかけて食べるので、最後に卵を4個溶いて流し込んで、火を通しすぎずに、はい、おしまい。





食べてみるとスタッフの評判が驚くほど良かった。たしかに豚肉の甘みとトマトの甘み、煮干しと醤油の旨味が足されて、人懐っこいアジアの味がして美味しい。最後に卵を入れたのも味がマイルドになって正解だったようだ。そして自分の料理ではここ二、三年でひさびさに使った黒砂糖が効いている(普段はまず砂糖は使わず、味醂で代用する)。砂糖を入れるとなんとなく店っぽいというか外の味になるのだなぁ。これは知らなかった。なによりレモングラスを入れると、なぜか言いようの無いアジア感が増しておもしろいことも初めて知った。

今回はたまたま二日かけてしまったけど、もちろん普段の賄いはこんなことはなくて、さらさらと簡単に作る。というか、こう実況風に書いていくと大変なように感じるかもしれないけど、この料理だって本当に簡単。まるで散歩のように気の赴くままに料理をしていく感じがとても愉しい。・・・というか、本当に天草の煮干しの粉、商品として取り扱おうかしらん、と考えているところ。





0 件のコメント:

コメントを投稿