2017年11月12日日曜日

メイクドラマ





祭りの余韻、未だ覚めやらず。うん、そうだ。あれはたしかに祭りであった。ひとびとは器というものに酔いしれ、戸惑い、恋い焦がれては、家路についたのだろう。だからこそ僕も終始、大陶磁器展という祭りのさなかに身を置きながら終始、ひとと酒に酔っぱらい、なんだかふうわふうわしていた。だからこそ、それに終止符を打つこと、つまりは撤収もなかなかに大変だった。

それに僕は撤収時に仕入れも考えていた。せっかく器の祭典に参加させていただいたのだ。これはみなさま(お客様)にその甲斐と成果をお見せしなければ、日頃やっていることがウソになる。なので、金澤宏紀くんと木ユウコさんに無理を言って、撤収時にその場で泣きの仕入れをお願いする。でもその時、他の窯元の方々は当然凄まじい撤収の嵐で、祭りの喧噪も終わりを迎えようとしていた。そんな凄まじい喧噪のなかでひとつひとつ仕入れる作品を選ぶことの難しさ。いやはや、大変だった(でもちゃあんと新作仕入れましたよ)。



ようやく仕入れ選びを終え、自分のブースに戻り、そしてようやっと撤収の準備に取りかかる。もう周りは半分以上撤収を終えようとしていた。まぁ焦ることは無い。少しずつやって、ぼちぼち熊本に帰ればいい。・・・そうはいってもなんとなく焦る。それも祭りの作用のように思われる。展示していた什器の数も細かくて多いし、行きは奥さんに手伝ってもらいながら車のバンに積み込んだが、帰りはなんだかんだと荷物も増え、とにもかくにもなんだか心配だった。でも他のひとに台車なんぞを借りつつ、なんとかひとりで積み終えた。そのときの達成感といったらば大袈裟だけど、なかなかずしんとした心持ちはきっと他のひとには分かってくれないものがあると思う。それくらいこの祭りは自分にとって大きかったのだと思う。ひとつの地にここまで長い間泊まることもそうそう無いし、労力を使うこともあまり無い。もちろんそれは他の参加者、もっといえば作品を出されていたそれぞれの窯元さんたちももっともっと大きな安堵感があったんじゃないかと思う。この祭りのために長い間力を裂いて作品を創り続けたはずだから。まぁ兎に角、さよなら、天草。さよおなら、器の祭典。サヨナラ、愛すべきみんな。









・・・・・・と、挨拶をして帰ろうとしたら、無い。無い。ゲゲゲゲッ。カギが無い。車のカギがどれだけ探しても無いのだ。ポケットを探してもバッグのなかを探しても無い。無いものは無い。でも撤収をする前には確かにあった。もしかしたら撤収しているときにどこぞの荷物にカギが落ちたのでは…。でももうすでに車のバンに荷物はぎゅうぎゅうに詰め込まれている。しょうがなく、泣く想いで車の後ろのドアを開け、少しずつ荷物を降ろしてはカギを探してみるが、やはり無い。無いものは無い。そもそもどこの荷物に入り込んでいるかも分からないわけだから、もう一回最初から荷物を全部降ろしてカギを探さなきゃいけないのか。ま、まじか。どうすればいいんだ。もう外は夕闇を超えて、明らかに暗い。カギが見つからなかったら、このままここに車を置いて行かなきゃ行けないのかな。おれってなんでいつもこうなんだろう。焦りながらももはやどうにもならなくなって、ひとり泣きそうになる。というか、明らかに気持ちは折れてこころは全泣きだった。産まれてこの方のすべての我がトラウマがここに恐ろしく襲ってくる。あのときもああだった。このときもああだった。いくつになってもそうだった。いくつになっても我が影からは離れられない。いくつになってもこうやって途方に暮れることからは逃れられそうに無い。泣きそうになりながら、なぜか足が赴くままにふらふらと受付に行ってみたらば・・・なんとそこにカギがあった。落としたものを誰かが届けてくれたのだろう。もはや射精するほどの安堵感と高揚感。自らが偶然にも演出し描いたメイクドラマをくぐり抜けることの多大な苦痛さと疲れるほどの幸福感。すぐさま、想う。「・・・おれに似てしまった我が息子もこれから大変だろうな」と。

そもそもなんでこんなことを自分はここに書き付けているのだろう。家に帰ってからその一部始終を奥さんに話してみると笑いながら「最終的にそこで誰かのお陰でカギが見つかるのがあなた(でありわたし)よね」という。まぁそうだろうな。誰かの善意が無ければ自分は文字通りここにはいないだろう。それだけは確かなことだ。そしてすべての事は、悪い方に流れればもっともっと悪い方に向かっても良かったはずなのだ。なんだか根本的ダメ人間の結果オーライ讃歌のように聞こえなくもないが、まぁそれを引き受けるしかないのかもしれない。

でもそんな自分を引き受けながら、もういよいよ次の展示会は始まっておるのです。昨年もお世話になったモロッコラグの展示会。19日までですので、みなさまぜひお越しを。










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